夏休み その4

山登りは好きじゃない! と言いながら、夫の山登りに随分付き合ってきた。
 
でも、本当に好きじゃないんだろうか・・・
 
歩くのが遅い・高いところが怖い、と決して身体は山歩きに向いてはいないのだが、
ここまで続いてきたということは、ひょっとして好きなのかなあ・・・
 
好きとまでは言えなくも、嫌いじゃなくなってることは確か。
 
夫の教育のおかげか、私の努力の賜物か・・・
 
登山は、歩きながら自分を鍛えることができる。
体力も精神力も。
たとえ歩くのが遅くても、ゆっくりコースを設定し、ペース配分をきちんと守れば、必ず頂上に着くことができるのだ。
ペース配分の大切さは、体力と精神の両方について言える。
 
「まだかまだか」と思いながら歩くのと、
「まだまだ」と思って歩くのでは、疲れ方がずいぶん違う。
 
決して、「すぐに」を期待しない。
これって、何事にも通じるかもしれない。
 
コツコツ歩いていると、いつの間にか・・・というのが好きだ。
今回も「まだまだ」を頭の中で繰り返しながら歩いた。
 
  ☆  ☆  ☆
 
登山3日目
 
ルートは
室堂ー奥大日岳(2605m)ー大日小屋(2498m)ー大日平山荘
 
奥大日岳からは昨日の別山とは違う角度から剣岳が展望できる、と夫が楽しみにしているコース。
しかし、私にはコース上で気になる地点があった。
地図に書かれた「梯子」
下り道の途中にある。
「ハシゴはいやだなあ・・・・もしも怖いところだったら、私引き返すからね。」
と夫に何度も念を押した。
 
雷鳥荘を夜明け前に出発。
山の中腹まで登って振り返ると
朝日を浴びた山並みが美しかった。
今日も快晴
 
今日も
歩いて・・・・歩いて・・・・・歩いて
 
あっ!
あれが剣岳だ。
逆光で見えづらいが、のこぎり歯のようにギザギザした稜線は周りの山とは別格であることを主張している。
 
歩を進めるにつれ、そして太陽が高くなるにつれ、
全体がはっきり見えてきた。
 
奥大日岳の頂上から見た剣岳
かつては、絶対登ってはいけないと恐れられていた剣岳。
今は多くの山好きが登っているものの、ここで命を落とすものは決して少なくない。
今年もすでに何人も転落し死亡している。
 
頂上で一休みした後、
いよいよ下りだ。
ハシゴのことが気になってドキドキしながら歩いた。
途中すれ違った人に「ハシゴは怖いですか?」と尋ねると、
「いや、全然怖くないですよ」との返事。
少し気が楽になった。
 
歩くときはいつも夫が前を歩く。
危険な個所を通るときは注意をくれる。
 
「下を見ない方がいい」
と、夫が言った場所がある。
 
左手は岩の壁
右は断崖絶壁 
谷は深い
歩く道幅はわずか50cmほど
 
言われたとおり下を見ないで通ったので、実際にはどれほどの怖さかわからないが、
見ていたら足がすくんで通れなかったかもしれない。
 
「かなり怖い」思いをすると、「ちょっと怖い」は平気になる。
恐れていたハシゴは、あの岩が切れ落ちた箇所に比べれば、なんてことはなかった。
 
思っていた以上に下り道は歩きにくく、長かった。
この日も小屋についたのは4時近く。
 
山小屋で飲んだ生ビールのおいしかったことは言うまでもない。 

夏休み その4」への4件のフィードバック

  1. 奥深いその4だった・・・・・。特に前書き。じんときたよ。できそうでできないことでも諦めてはいけないよね。特に今だからこそ。山登りは経験がないし体力に自信がないけど,高いところは好きだよ。きのうも屋根に上がって庭木の剪定をしたんだよ^^いつ梯子が出てくるかと期待したんだけど、さすがに写真撮っている余裕はなかったか。剣岳って本当にギザギザだね。確か映画を観にいったんだったよね。その効果はどうだったのかな。

  2. utaさん、私たちの年代になったらもう競争なんてしなくていいのよ。自分のペースで、って思うだけで気が楽になる。梯子の写真? 梯子より崖の写真を撮ればよかった・・・ほんとに怖いんだから。今、新田次郎の「点の記」を読んでるんだけど、ものすごくイメージしやすい。できればもう一度映画を見たいな。

  3. そうなんだ、やはり本物を間近で観て体験してからの文章って全然違うよね。普通だったら本が先か、映画が先か、ってことになるんだけどなんったって実物が脳裏に焼きついていてそれがほやほやなんだから、イメージ溢れそう^^下を見ないほうがいいと言われて見なかったってのもすごい!私だったらすぐ見てしまうもの。

  4. utaさん、実際にその場所へ行くことで、小説の作者・映画の役者たちと同じ思いを共有できる。肉体の疲れや、風の心地よさ、周りの風景と自分との距離感・・・etc一つの体験から得る感動は何倍にも膨れ上がる。

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